脱ゴーマニズム宣言裁判を楽しむ会議室
1998/03/17(05:44) from 210.132.132.215
作成者 :今井恭平(pebble@jca.ax.apc.org)
Re: 今井さんへ
信者さん wrote:
>はじめまして、信者と申します。

どうも。はじめまして、珍しいお名前ですね。今井といいます。フリーのジャーナリストで、編集という仕事もやっています。

>>今井です。編集とライターという、著作権問題を日常の業務の一環として扱っている人間の立場からいうと、引用は法律で守られた権利であり、これには一切許可は必要ない、というのが法律の立場でもあります。

>それは漫画でも当てはまるんですか?

はい。漫画だからといって、ほかの著作物と基本的に何の差異もありません。

>>(著作権法を読んでみてくださいね)
>出来ればここにUPして欲しいんですけど・・
>だめ?

まさか著作権法全部をタイプしてここにアップしろという意味ではないと思いますが(^-^)
関係する条文だけを紹介すると
著作権法32条「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲で行われるものでなければならない」
です。
引用する権利がまず規定され、その上で制限事項が規定されているのが法の論理構成だと言うことがお分かりかと思います。
これは、著作物には著者の個人的な所有物である側面とともに、いったん公表されたものは社会的な存在であり、批評や研究、報道の対象として扱われることを不当に制限されてはならない、という考え方に基づいています。
これは著作権法の考え方の中で優れた点だと思うのですが、批評、研究、報道などの活動の社会的・文化的な意味を正しく評価しています。つまりそうした活動を通じてこそ、文化的な水準が向上し、すぐれた批評によって、著作物もまたすぐれたものになっていく、という考え方をきちんととっています。したがって、批評や報道・研究の権利を不当に侵されないように、引用権を規定しているのです。
また、当然ですが引用に著作権者の許可は必要ありません。
もしも許可を必要とすると、ベタボメの提灯記事を書くのならいざ知らず、辛口の批評などをされるのを嫌がるような著者もいますから、「悪口書くなら、僕の書いたものを引用させない」なんていうことを言う人も出てくるからです。
小林さんも、口先では批評はどんどんすればいい、などと言いながら実際にやっていることを見ると、どうもこの口ではないかと思っています。
ついでながら、「無断引用」という言い方をする人がいますが、これは著作権法をまったく知らない人の言い方だと思います。引用とはそもそも「無断」でするものなのです。これはきっと引用と転載を混同しているのかな、と思います。転載は、著作権法の引用にあたらない例で、たんに人の著作物をそのまま転載する行為で、これもべつに許可さえ取れば、不法行為でも道徳的に非難される行為でもないのですが、いずれにせよ引用とはまったく別個の問題です。こうした初歩的なことを知らずに論議するのは不毛ですから、お互い少しずつ勉強していきましょう。

>>また、許可を求める、ということは許可を待つ、あるいは許可がなければ掲載しないということです。それでは、批評や批判というのはなりたちません。

>別に漫画を載せなくても、文章だけ引用すれば良かったんじゃないんでしょうか。
>ゴー宣はある意味漫画の範囲を超えて一種の言論的要素を持ってるんだから文章の引用だけでも十分批判は出来るんじゃあないでしょうか。
>ちなみに僕は、文章の引用だけなら、道徳的に許されることだと思います。
>問題は漫画家の命である「絵」を無断で引用していることです。
>その人の思想を批判するには本来「文章」だけで充分な筈です。
>「絵」を引用することに何か意味があったんでしょうか。

これが、この裁判での一番の争点ですね。これから相互に証拠や主張を出し合って証明していくことになると思います。したがって現時点ですべての論点を出すのは無理ですが、今の段階で、少なくとも僕は以下のように考えています。

小林さんの著作物が小説でもエッセイでもなく、漫画である以上、それをそのままの形で引用するのが、もっとも正しいやり方です。
いやしくも人が心血を注いで作り上げた著作物を引用するのに、それを勝手にせりふ部分だけ切り取って引用するなど、もってのほかの無礼なやり方だと僕は思います。
彼の主張は吹き出しの部分だけで十分理解できる、などというのは、小林さんにむかって「おまえの漫画はせりふだけで十分。絵の部分はたんなる挿し絵か付け足しの飾りみたいなもので、なくても十分」などと言うようなことではないでしょうか。こんな失礼なことがあるでしょうか?
僕が不思議でならないのは、上杉さんはきちんと礼儀を守って、小林さんの作品を完全な形で引用しているのに、ぎゃくに小林さん自身が、自分で自分の作品をおとしめるようなこういう主張をしていることです。ほんと不思議でならないので、これからもこの謎を解くために、裁判の進展に興味津々で関心をもっていくつもりです。

それから、小林さんも、絵は漫画家の命で、苦労して描いたものを安直に引用されるのはけしからん、という言い方をしてますが、それでは小説家の文章や学者の論文や僕らのようなジャーナリストが足で調査し(僕自身は最近はインターネットで調査し、パソコンの前からあまり動かずにものを書いているという「無精」をしてますが)金と時間をかけた取材の結果として書いた文章は、苦労や心血を注いだものではない、というのでしょうか?ことさらに絵であることを特別なことのように言うのは、そのように言っていると聞かれても仕方がないと思います。そういうことを言われたら、職業として文章を書いている人は怒りますよ


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