脱ゴーマニズム宣言裁判を楽しむ会議室
1998/04/06(03:32) from 210.132.132.103
作成者 :今井恭平(pebble@jca.ax.apc.org)
著作権法39条 スグルさんへの返事
 今井です。こんばんおはようございます。
 まず、お断りしなければいけないのは、先週一週間めちゃ忙しくて、脱ゴーセンHPの管理人の一人であるにもかかわらず、ほとんどこの掲示板をのぞく時間がなかったということです m(_ _)m。 かなり書き込みが増えているようですが、目を通してませんので、もしも僕がこれから書くことが、このかんのいろんな書き込みとの関連で時代遅れになっていたとしたら、ご勘弁を。

 なにしろ書き込みが増えていて、僕がスグルさんに返事をかくために、前のメールをもういっぺん確認しようと思ったら、だいぶ探してしまいました。
 以前のメールにレスをつけると、オリジナルメールの下にくっついてしまって、過去メールの中に埋没してしまうかもしれないので、サブジェクトを変え、新規投稿にしました。

 で、そもそもどんな話だったかをリマインドしないと分からないですね。

(以下、引用の前の#をつけた番号は、投稿番号です。改行位置は適時変更してます。引用箇所と地の文は区別がつくと思うので、引用マークはつけていません。)

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#61 スグルさんwrote;

僕の主張には根拠が無いですか?『朝日新聞の正義』についてですが、僕はこの本に批判を向ける気はありませんよ。前にも書きました通り、新聞・雑誌の論説の場合は「転載・放送できる」と著作権法で認められているでしょ。それに世の中ですでに慣習化(慣例化が正しいでしょうか?)してるではないですか。ですから、慣例の無い「脱ゴー宣」とは「別の問題」だと言ったのです。
 それにあなたが自分で言ってるように、特定の1つのマンガの絵を引用しまくって本を作って売ったのはあなたが「初めて」なんでしょ?常識から見て僕はヤバいと思いましたよ。だって前代未聞だもの。そんな事したら絶対怒られて当然だと思ってましたから。世の中にもそういった常識があるから今まで誰もしなかったのでは、と考えるのは「普通の感覚」とは違うのですか?それはあなたの言う「自然な疑問」とは言えないのでしょうか?

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#60 今井wrote;

すいませんが、著作権法の何条にそんなことが書いてありますか?著作権法で認められている、という主張をするなら、その条文を示すべきでしょう。僕は寡聞にしてそんな条文を知りません。
新聞雑誌の論説が転載・放送できるというのは、まためちゃくちゃな言い分ですね。慣習化もされていません。なにを根拠にこんなことを主張しているのですか?
あなたは新聞協会の最近の声明を読んだことありますか?

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#58 スグルさんwrote;

えーと、僕の持ってる「ポケット六法」(有斐閣 平成9年版)によると、「著作権法第39条」ですね。「時事問題に関する論説の転載等」の項目です。そこには条文が2つ載っております(2つしかありませんよ。念のため)。

<以下、法律の条文自体の引用部分は省きます−−今井>

 この他、「政治上の演説等の利用」「時事の事件の報道のための利用」「裁判手続等における複製」などいろいろあります。例えば朝のニュース番組で「今日の朝刊」とかいうコーナーがありますよね。そういうのは恐らくいちいち新聞社の許可などは取っていないのではないでしょうか。ここは僕の推測なんでよくわかりませんが。

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 上記のようなやりとりがあったと思います。

 したがって、スグルさんは著作権法39条を

「『朝日新聞の正義』についてですが、僕はこの本に批判を向ける気はありませんよ。前にも書きました通り、新聞・雑誌の論説の場合は「転載・放送できる」と著作権法で認められているでしょ。それに世の中ですでに慣習化(慣例化が正しいでしょうか?)してるではないですか。ですから、慣例の無い「脱ゴー宣」とは「別の問題」だと言ったのです。」

ということの根拠だと言っておられるわけです。
ここを素直に読む限り、”新聞雑誌の論説は無条件に転載・放送できる”という主張にしか読めません。(しかも、「慣習化」もしくは「慣例化」している、とまでおっしゃってますが、その根拠は示されていません。しかし、そのことはひとまずおいて、著作権法に関する部分にしぼります)
 しかし、39条はのちにスグルさん自身が正確に引用したものを見ても分かりますが、
「新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く)は」という明白な制限を付けた上で、「他の新聞紙、若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送することができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない」
としています。
 僕が、根拠となる条文を示して下さい、と言ったので、スグルさんも条文をもう一回読み直してくれたのだと思いますが、にもかかわらず、39条が自分の主張の根拠である、とおっしゃるのは強引すぎませんか?だって、あなたは最初、”新聞・雑誌の論説の場合は転載・放送できる”とあたかも、論説であれば無条件で転載が許されているという主張をしているんですが、そうではないですね。
 こういうやり方をすると、自分の主張に都合のいい部分だけをもってきて、ほかの部分を無視しているやり方に見えます。
 ふつう、こういうのって「ご都合主義」といいますね。
 スグルさんが無視した部分は
 「政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する」論説であり、かつ「学術的な性質を有するものを除く」という部分です。
 これは、そもそも著作権法でいう著作物とは何か、を規定した部分に以下のように書かれていることとも関連します。

 著作権法第2条では、この法律で使用する用語の定義を行っていますが、著作物という言葉は以下のように規定されています。
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものを言う」
 また、別の箇所では、たんなる事実の叙述にすぎないものは、この法律に言う著作物ではない、と言っています。

 第10条 2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。

 これら第2条や10条の規定との関連も含めて39条を読むと(もちろん39条単独で読んでも、スグルさんは一部を勝手に省略して解釈してしまっているのですが)、転載を許す、としているものは、新聞・雑誌などの論説のなかで、事実の叙述および事実の解説にすぎないようなものであり、「思想又は感情を創作的に表現したもの」という著作物の定義にあてはまらないものを指していることは明白だと思います。
 ちなみにスグルさんは「朝日新聞の正義」は著作権法上問題ない、と主張し、その根拠として39条を上げているわけですが、「朝日新聞の正義」には、たとえば本多勝一氏の「中国の旅」が版面のレイアウトや写真といっしょにそのまま掲載されていますが、これを著作物ではないとか、あるいは39条の規定に当てはまるものだと言えますか?

 それから、小林氏は、上杉氏が彼の著書から引用する際に、絵は引用せず、せりふだけでよい、と主張していますが、それでは「朝日新聞の正義」に新聞のレイアウトをふくめてすべて引用していることをどう説明しますか?
 本多勝一氏の文章だけを引用すればいいのに、なぜ写真やレイアウトをそのまま掲載しているのでしょうか?これは許されるのに、上杉氏が絵を引用することは許されないと言うわけですか?
 また、上杉氏が絵を引用した際に、目隠しをしたのは同一性保持権の侵害と主張していますが、それなら「朝日新聞の正義」でもP.50の引用の仕方は、同一性保持を侵害していますね。ちなみに、新聞のレイアウトには編集著作権というものがあるのをご存知でしょうか?(第12条)
 僕は前にも書いたように、新聞協会の声明にあるような著作権の拡大解釈(たんなる事実の叙述にすぎない雑報記事にまで著作権を主張しようとしている)には反対であり、小林氏が朝日新聞を批判するために新聞の紙面を引用することはかまわないと思っています。しかし、自分はそれをやりながら、他人が自分を批判するために自分の漫画を引用することを許さない、というご都合主義のダブルスタンダードを許すことはできません。
 小林氏はなにをやっても許されるが、他人には許さない、それがけっきょく小林氏やその支持者の態度だとすれば、ゴーマンといってもぜんぜん洒落にもなりませんね。
 昔のゴーマニズム宣言は、ちゃんと洒落になっていたと思うのですがね。

=====以下は付録ですから、とばしてもらってもいいです=====

 ついでですが、多くの著作権法についての解説書などでも、おおむね著作物であるための必要条件としては、創作性ということに重点が置かれています。つまり、オリジナリティのある創作活動の結果の産物であると言うことです。ただ、これは表現された最終形式のことを指しており、オリジナリティがあっても、ナマのアイデアには著作権は適用されません。たとえば、推理小説には著作権はあるが、その中のトリック自体には著作権はありません。だからといって他人のアイデアをそのまま使用した小説を書いていいということにはなりませんが、アイデア盗用は著作権とは別の問題です。
 ついでのついでですが、著作物であるかどうかの定義そのものが、明文的に規定しにくい性質のものであるところから、ベルヌ条約、万国著作権条約、日本の旧著作権法においては、いずれも定義規定ではなく、著作物となるものを具体的に例示して、「文芸・学術・美術・・・に属するもの」といった規定の仕方をしています。現著作権法でも、第2条で包括的な定義をした上で、さらに第10条で「この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。」として、
「小説・音楽・舞踏など・絵画・建築・学術的な性質を有する図画・映画・写真・プログラム」・・・等々と列挙する方法をとっています。

以上


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