脱ゴーマニズム宣言裁判を楽しむ会議室
1998/05/09(19:23) from Anonymous Host
作成者 :萩原幸徳(fumio@tokyo.nikkei.co.jp)
新聞記者が覗いた「歴史教育」問題③
皆さん、こんにちは。萩原です。今回も初回投稿分の再送です。

 「障害者は乞食根性」

パリから帰国して湾岸戦争、産業取材を経験した後、93年春から英語週間新聞の編集担当となった。日本の政治・経済・産業・社会を幅広く外国人読者に発信するのが仕事だ。震災後1ヶ月の神戸、解放20周年のベトナムの産業振興、終戦50周年の沖縄の表情(米兵による少女暴行事件の直前)、新潟県巻町の原発住民投票などの取材が印象的だった。その合間に、「歴史教育」問題の取材もボチボチ進めていった。
96年5月、藤岡・東大教授に取材を申し込んだ。その際、質問項目として、「日本の戦争責任をどう考えるか」「昭和天皇の戦争関与をどう考えるか」といった、私の個人的興味を前面に押し出した書面を送っておいた。これに対し藤岡教授は電話で、「私とあなたで随分考え方が違いますね。でも人それぞれだから考えは違って当たり前。30分、1時間といわず、大いに意見交換しましょう」と、快く応じていただき、アポイントメントの日時も決めた。意見を異にする者との直接対話を厭わない、実直な学者の対応に好印象をもったのを覚えている。
約束の日まで少し間があるので、藤岡教授がその主張の主な発表の場にしているM図書出版の編集部に取材を申し込み、南大塚の本社にお邪魔した。「いま、なぜ、藤岡教授の主張を取り上げて世に問うのか」という出版社としての企画意図を教えてもらうためである。H氏という女性の編集長とE取締役が対応してくれた。しかし、そこでの応対は耳を疑うものであった。
「冷戦が終わり、社会主義が完全に崩壊したのに、日本の教育、特に歴史教育の現場では、いまだに社会主義信仰が根強く残っている。社会が平等であらねばならないなんて、いったい誰が決めたのか。それこそ戦後民主主義の悪しきイデオロギーに過ぎない。みんなの税金で賄われる福祉にたかる障害者は乞食根性だ。藤岡先生の新しい学問で、幻想である戦後民主主義体制そのものを変えていきたい」(H編集長)。「藤岡先生は右翼でも民族主義者でもない。旧来の右派勢力が、藤岡先生の登場を、百万の味方を得たように受け取るのは心外だ」(E取締役)。
私は12年間新聞記者をやっているが、取材中に怒りで頭が真っ白になっという経験はこれが初めてだった。社会主義が崩壊しても、痛くも痒くもないが、H編集長の後段の発言には私も感情的になり、「はっきり言って、マスメディアには「菊タブー」があり、われわれも忸怩たる思いがある。本当に「研究会」が「あらゆるイデオロギーとドグマから自由で、あらゆるタブーを排する」というのなら、昭和天皇の戦争責任について突っ込んだ研究をして、「平和主義者」などという戦後作られたプロパガンダの欺瞞性を打ち砕くような素晴らしい活動を期待しています」とぶち上げて帰ってきた。その後、残念ながら、E取締役の願いも空しく、「旧来の右派勢力が藤岡先生の登場を百万の味方を得た」というように受け取ってしまったが、、それにしても、「歴史教育の現場にいまだに社会主義信仰が残っている」とはどういう現状認識なのだろうか。多くの日本人の頭の中では、ソ連型社会主義などはじめから問題外だったのではないだろうか。「戦後の日本社会の矛盾は、すべて社会主義思想が原因」と言いたいのだろうけれど−−。
藤岡教授とのインタビューの日、教授から緊急の連絡があり、「日を改めてくれないか」とのことだった。とりあえず、日を決めずに延期することになった。7月に入って「そろそろいかかですか」と電話を入れた私に返ってきた教授の返事はまったく予想外のものだった。「あなたの取材はお断りさせていただきます。M図書と相談をして私が決めました」という。「どうしてですか」と聞いても、「理由は言えません」の一点張り。「もしかして私の取材方法にジャーナリストとしてのモラルに悖るような点があったということですか」。「そうです」。「それは私の記者としての存在の根幹に関わる指摘です。具体的にどういう点ですか」。「それは言えません」。何回電話してもすぐに切られてしまい、とりつく島がない。遺憾の意を綴ったFAXを送ったが、教授からはなしの飛礫で現在に至っている。様々な取材を経験した私にも、まったく理解の範囲を超えた対応だった。

 今回はこんなところです。仕事の合間の書き込みですので、レポンスや続報に時間がかかる点はご容赦ください。それでは失礼いたします。それと、菅二郎さん、「日本ちゃちゃちゃクラブ」のアドレス、ありがとうございました。非常に”エキサイティング”なHPですね。最近の若者の一部が何を考えているのか、社会学的観点からも大変勉強になります。


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