皆さん、こんにちは。萩原です。日曜なのに、閑散としたオフィスでカタカタとキーボードをたたいています。今回から新しい内容の投稿です。どうか、文字化けしませんように。 外堀取材
藤岡教授に取材拒否はされたものの、いつか話をうかがえる機会もあるかもしれないと思いつつ、藤岡教授以外の取材を進めていった。歴史学の専門家や、従軍慰安婦問題に取り組んでいる方々である。主な取材内容は次の通り。
①石山久男・歴史教育者協議会(歴教協)事務局長
「イデオロギーから自由なんていいながら、『自国の歴史にロマンと共感をもたせる教育』こそイデオロギーそのもの。『現在の価値観から過去の歴史を断罪するな』というが、歴史を学ぶということは、すべて現在の社会に関する問題意識から出発するもの。『その当時の価値観・考え方・社会通念』で歴史事象を捕らえても、そこから歴史的教訓を読み取ることはできない。『その当時に生きていた人々』に擦り寄って共感を重ねるだけでは、過去から現在に至るまでの時間の経過の中に存在する豊かな人間の営みは学べない。歴教協は『マルクス主義史学の巣窟だ』といわれのない非難をする人がいるが、その根拠は何か。確かにマルクス史学的アプローチで研究を進めている会員もいるが、それはごく少数派。マルクス史観は会の”公式史観”ではないし、第一、会に公式史観など存在しない」
②東京裁判研究の第一人者、粟屋憲太郎・立教大教授
「『東京裁判史観』とも『大東亜戦争史観』とも一線を画する新しい歴史観なんて触れ込みだが、『自由主義史観』なるものの中身は、ちょっと検討してみれば、これまで繰り返されてきた『侵略戦争肯定論』の焼き直しであることが明らかだ。強いて言えば、これまでは『侵略戦争は悪いことだが、日本は侵略国家ではない。大東亜戦争はやむにやまれぬ自衛戦争だった。戦争犯罪もそんなに激しいものは行っていない』というのが主な論点だったが、『研究会』は『戦争は悪ではなく、国益を追求するゲーム』と、戦争という行為そのものを肯定する点が新味といえば新味かな。そもそも『東京裁判史観』という言葉自体が、裁判そのものの問題性の追及も含めた実証史学を攻撃する為の政治的なけなし言葉で、そんな史観を基礎に置く歴史研究者は存在しない。はじめから政治的意図をもっている彼らに学者としての志なんかないし、彼らの歴史が歴史学、歴史教育のマジョリティになることはありえない。『東京裁判はマッカーサーが演出した戦勝国による復讐劇』と非難する人がいるが、まったく勉強していない証拠。プライドが高く自己顕示欲が異様に強いマッカーサーは、山下奉文と本間政晴を裁けば満足で、東京裁判なんてやりたくかったが、中国や豪州、フィリピンを中心とする国際世論に抗しきれず、しぶしぶ裁判を始めた。のちに『日本は自衛戦争を戦った』と発言したのも、自己の占領政策の有効性を主張せんがためのパフォーマンス。その一言にしがみついて、『大東亜戦争は自衛だった』と公然と主張する”学者”がいまだに存在するのも、日本の現在の歴史学会の水準を物語っていてさびしい」
③南京大虐殺に詳しい藤原彰・元一橋大教授
「南京で20万を下らない中国の軍民が旧日本陸海軍によって虐殺されたのは、日本独自の歴史研究の成果ですでに明らか。虐殺を証明する旧軍人の証言や日誌が続々と出てきている。決して中国側の主張を鵜呑みにしている訳ではない。それなのに、虐殺否定派は何回論破されても臆面もなく同じ主張を繰り返している。真面目な学者はもう疲れましたよ。歴史の偽造者として誰も相手にしない田中正明氏の言説を真に受ける学者やジャーナリストがいまだにいることに、むしろ驚きを禁じ得ませんね。南京事件研究家の阿羅健一氏など、私のところに2度取材に来ましたが、私が言ったことを歪曲して記述、抗議したが知らん振りだ。マスコミが不勉強なので、彼らの言うことがそのまま活字になり、世の中に誤解を広めているのだろう」
④日清・日露戦争に詳しい井口和起・京都府立大教授
「日露戦争が自衛戦争だったというのは、その当時の為政者が盛んに喧伝した政治テーゼ。現在の歴史学では帝国主義国同士の植民地獲得戦争であったことが明らかにされている。仮に日露戦争に敗れていたとしても、当時の国際情勢を見れば、日本が外交権を奪われてロシアの属国になったとは考えられない。それにしても、藤岡さんたちの主張が、戦前の国体明徴運動の際に出された『臣民の道』という戦争動員のためのパンフレットの内容に極めてよく似ている点に興味を持ちます」
⑤ご存知、吉見義明・中央大教授
「従軍慰安婦は旧日本軍が必要とし、設置を進めていった軍の軍による軍のためのシステム。徴募の形態も内地や植民地、占領地で違い、強制連行、借金で縛る、甘言でだますなどの様々なものがあった。未成年も連れて行くなど国際法抵触は明らか。業者の裏には軍が存在していた。日本軍の特性を如実に表す好例ではないだろうか」
井口教授のみ電話取材。中央大のキャンパスは遠い(失礼!)。吉見教授の研究については、教授が多数の著書を出しており、一般の人でも触れやすい。私の取材では、特に新しい内容は出てこなかったので、岩波新書の『従軍慰安婦』を参考にした。田中正明氏とは「松井石根司令官秘書」で80年代に虐殺否定派としてマスコミに登場。松井司令官の陣中日誌を300個所以上にわたって改竄していたことが明らかになり、文芸春秋から切られた人物。東京裁判関係のベストセラー『パール博士の日本無罪論』の著書でも知られる。大沼保昭・東大教授によると、パル判事は「日本は無罪」とは言っておらず、南京事件に関しては「証拠は圧倒的」と言っている。84年に東京で開かれた東京裁判シンポジウムに田中氏も参加、パル判事が日本無罪論者でなかったことを認めたという。それでも『日本無罪論』は売れる−−。
今回はこの辺で。