脱ゴーマニズム宣言裁判を楽しむ会議室
1998/05/11(23:26) from Anonymous Host
作成者 :北の狼(tngc@po2.nsknet.or.jp)
著作権;上杉氏へ質問
本HPの、続脱ゴーマニズム宣言の”マンガに洗脳されてしまう若者たち:上杉 聰 ”を読ませていただいて、著作権で気になる所論があったので、誠にぶしつけではありますが、上杉氏に御質問させていただきたい。

上杉氏は、まず「新ゴーマニズム宣言」第55章『SAPIO』12/26号66頁から次の文章を引用されている。

“盗っ人猛々しいとはこういうやつのことだ どんな専門家に確認したのか知らないが『磯野家の謎』以降ブームになったいわゆる『謎本』も最近の『エヴァンゲリオン研究本』でも業界の慣例として認められている「部分的な引用」はあくまでもセリフなどの文章部分のみに限られている漫画・アニメなどのビジュアル作品などの内容を評する場合でもその作品の画面を著作権者に無断で転載してはならないというのは常識中の常識だ”

これに対して、上杉氏は以下のように反論されています。

“ したがって、これは著作権法などの法律によって禁じられているものでなく、漫画関係者が相互の権益を守り、もしそれに従わない者がいた場合、業界の内部で仕返しするなど、閉鎖的で談合的なシキタリがあることを述べているだけなのだ。著作権法第32条は、「公正な慣行に合致」し「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で」「公表された著作物は、引用して利用することができる」と明記している(松沢呉一氏もこの点を『SPA!』誌[12/ 17号]で私の側に立って説明してくれている)。”

そこで、著作権法 第32条 [引用] をみてみますと、
「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」
と書いてあります。

どうも「業界の慣例」ないしは「慣行」が一つのキーワードのようですね。そこで、「慣例」の意味を調べてみました。「慣例」は法律用語では慣習ないしは慣習規範という。慣習に義務意識等を伴うと「慣習法」と称せられ、法源性が認められている。また、事実としての慣習があれば、単なる慣習ないしは「慣行」と称される。そして、慣習法は勿論のこと、慣行も法源性を有する(法源性とは、裁判において裁判官の判断基準になるということで、最も重要なのは刑法、民法等の制定法である)と認められている。ちなみに、ものごとを実際に行うことだけでなく、禁止事項も慣習にふくまれる。
「漫画の絵の引用が許されていない」という「業界の慣例」こそ、正にこの慣行に他ならないようである。

著作権法の第32条には「公正な慣行」とあるが、それでは「漫画の絵の引用が許されていない」という「業界の慣例」、すなはち、「慣行」は「公正」であろうか? 
その答えは「漫画の絵の引用が許されていない」という「業界の慣例」は、何故あるのかを考えてみれば分かると思います。それは、「著作者の権利」を保護するためでしょう。著作権法 第17条 [ 著作者の権利 ] にはこう書いてあります。『著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。』。 このように、著作者はこの二つの権利(著作者人格権、著作権)を有すると、法律上、明確に記載されています。勿論、漫画は立派に著作物である。だから、著作者の権利を保護するためにある「漫画の絵の引用が許されていない」という「業界の慣例」が適法かつ公正なのは、当然なことに思えます。決して”閉鎖的”でも”談合的”でもなく、正当な権利についての公正な慣例といっていいのではないでしょうか? 従って、この慣例を破ったのは、ややマズイのではないかと思いますが、如何でしょうか?

以上、まったくの素人考えで申し訳ありませんが、間違っているところがあれば御教授くだされば幸いです。


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