脱ゴーマニズム宣言裁判を楽しむ会議室
1998/05/16(00:57 from Anonymous Host
作成者:秋月 康夫(AKIZUKI@chollian.net)
Re: 『憂楽帳』虚報事件について
 悟のぱぱ さん、こんばんは。

 えーと、わたしは、もちろん、「自由主義史観」を名乗るグループの存在について知ってはいますが、別にあれは、政党でも団体でもないんでしょう? 悟のぱぱ さんが、どのようなお立場で、「自由主義史観のスタンスを採る者」と自称されるのか存じませんが、これは、「自由主義史観」を名乗る人たちの書いたものを読んで、自分もそれに近いと思えば、誰でもそんなふうに言える、範囲の広い位置づけなんだと思うんですね。で、……
 映画の試写会に行って、「売春婦!」だなんのとヤジった人がもしもいたとして、その人が「自由主義史観」の人なのかどうかなんて、議論してもむだなことだと、わたしは思いますけど。本人がそう言えば、そうなのかもしれないし、だからと言って、「自由主義史観」を名乗る他の人たちが、みんなそういう行動をする人たちだなど言えば、そんなはずもありませんよね。「自由主義史観」の人というのは、そういうような、不特定多数しか意味しないと、わたしは考えるわけです。

 でも、元「慰安婦」の人が、なにか事実でない行動をしたかのように書かれたことについては、これとちょっと意味がちがっていやしないかと、考えます。なぜかというと、『ナヌムの家2』という、当の「慰安婦」をテーマにした映画の試写会で、しかも、日本で行われていて、くだんの虚報記事によれば、元朝鮮人「慰安婦」だったというのですから、そんな条件を満たしてその場にいることのできた人はと考えていったら、具体的な名前をあげられるほどにまで、範囲は限られてしまいます。(より詳しい知識があれば、その範囲はゼロに近いというところまで考えが及び、誤報の可能性に気がつくかもしれませんが。)そして、その名前をあげられる範囲の人たちは、まさに「自由主義史観」を名乗るグループの有力な論客から、「証言はいくらでも作れる」などと言われているのですから、それが、ありもしない子供の頃のはなしをして演説をぶったというようなことを書かれたら、この範囲の人たち全体を傷つける結果になるのは、ちょっと考えればすぐにわかることです。

 「自由主義史観」が、映画の試写会でヤジるような行動とは無縁であるとみなされるかどうかは、その「史観」を自認する人の言動によって作られるイメージによっているわけで、自分たちがふだんから立場を明確にしていればいいことではないでしょうか。わたしが見るところ、「自由主義史観」の主だった論客たちは、自分を表現するメディアをもち、自分たちの立場が曲解されたと感じれば、また反論する場を十二分に与えられています。そして、別に、新聞で「自由主義史観のシンパが」と、書かれたわけでもないし、「自由主義史観」の名前が汚れてしまったと思えば、また、別の名を名乗ることさえ、むずかしい話ではないのです。
 一方、この虚報記事で傷つけられた元「慰安婦」のイメージは、本人たちの言動に即して語られる以前に、圧倒的に周囲の(時には”支援”を名乗る団体によってさえも)作られたイメージからしか理解されていない上に、それをはねのけようとして語る十分な言葉の資源を持ち合わせていません。かのじょたちは、「慰安婦」という意味づけを捨て去ることもできず、押しつぶされそうになるなか、かろうじて生きるための尊厳をつかみとろうとしている存在です。それを、名指しに近い特定をされてウソを書かれたら、おそらくは書いた本人が好意で書いていると思いこんでいる分だけ絶望が深まるというものです。「慰安婦」であった自分が何をどう言っても、世間は「慰安婦」に対する固定観念を変えようとせず、逆にその固定観念から自分を見てしまうということに、かのじょたちはさいなまれているのです。

 そういうわけで、ご説には、ちょっと賛同しかねるのですが、しかし、「自由主義史観」を名乗る方が、自分の考える「自由主義史観」は試写会でヤジをとばすようなものではないということを主張するために、毎日新聞のくだんの記事に抗議するというのであれば、それはそれで、お気持ちはよく理解できます。そういう抗議は、どんどんなさったらいいと、思います。

 あと、

> ただ、坂竜飛騰さんは制作者たちへの信頼感が減るという指摘などしていませんよ。>坂竜飛騰さんは、記事を書いた新聞記者を批判し、それに対する感想、そして情報操作の危険性を同業者である萩原さんに問いかけているのです。

の部分ですが、そのように理解しております。わたしが、坂竜飛騰さんへのレスという形で投稿したことが、坂竜飛騰さんへの(オーバーにいって)敵意に感じられたのかもしれませんが、単に補足をしようと思っただけです。坂竜飛騰さんのご意見に賛成というわけでもありませんが、この件に関しては、萩原さんがお答えになればいいことだと考えておりますので。

 それでは。


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