参考書架

本多勝一研究会辞書編集局編纂

『本多勝一版:家畜人用語用例辞典』

(略称『家畜語用例辞典』)


『家畜人用語用例辞典』編纂のねらい

この辞典は、次の本多勝一氏のよびかけに応じ、外来語の氾濫状況を反省するためのものです。

「機械の故障なら「故障」なり「狂い」なり万人にわかる日本語がすでにあるのだし、人間関係なら「イザコザ」という実にわかりやすい言葉があるのに、わざわざトラブルなどというのは、いったいどういう心理なのでしょうか

 たしかに、なにか新しいものや新しい概念が外国からはいってきたときには、それにピッタリの訳語がないことがあります。それでもなるべくなら訳語を考えて、民族文化としての統語法の海の中に迎え入れる方が、特に高年世代との心の断絶を少なくするためにも望ましいと思うのですが、このごろのムヤミヤタラなイングランド語乱用傾向は、ピッタリ以上の良い日本語があってさえ、それを捨ててイングランド語を使いたがるところまで来てしまいました。…このごろの日本ときたら、戦後の米軍占領時代よりもはるかに盛んに、自らすすんで言葉を捨て、自らからすすんで植民地化への道をバク進しているのです。イザコザや故障(狂い)を捨ててトラブルにするなど、無数にある「植民地用語」(沼正三氏ふうにいえば「家畜人用語」=略して家畜語)の一例にすぎません。

もう毎日アタマにくることばかりなので、(なにしろ私の勤める新聞社の新聞記事自体に家畜語が氾濫してアタマにきっぱなしなので)蟷螂の斧とは知りつつも、ここで「家畜人用語(家畜語)」を「普通の日本語」にいいなおす作業を、半分は遊びとしていくつかやってみましょう。皆さんも周辺の言葉でこころみてみませんか。」

(『実戦・日本語の作文技術』所収「家畜人用語辞典のこころみ」243〜244ページ;赤字太字による強調は引用者による--以下同。)

「家畜人用語(家畜語)」の定義

上の引用にあるとおり、

「万人にわかる日本語がすでにあるにもかかわらず、わざわざ使われる外来語」

を「家畜人用語(家畜語)」とよびます。以下はその用例です。

注記
理論上は日本人が漢字熟語(「氾濫」、「故障」など)を使うのも「漢語系家畜語」とよばねばなりませんが、そうすると上記の議論が怪しくなるので便宜上この問題は無視し、英語--もとへ、「イギリス語」--もとへ、「イングランド語」--などヨーロッパ系言語起源のものを中心としたいわゆるカタカナ外来語に限定することとします。以下の「いいなおし」にあたっては漢語系家畜語をどんどん使います。


用例集

ア〜オ

語源:eine kliene Hitler(ドイツ語(誤用))

用例:「ヒトラーに比肩しては、あの世のヒトラーに嗤われる小モノで申し訳ないけれど、「ウソツキと卑劣な小心者とをこねて団子にしたような」現東京都知事が、アイネ=クライネ=ヒトラー(矮小ヒトラー)としてホンモノに共通する部分や共通する社会情況があることに注目・警戒すべきであろう。」

(本多勝一著「ヒトラーに嗤われる男 」、『週刊金曜日』掲載「風速計」(2000/4/21発売312号))

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「ヒトラーもどき」、「小ヒトラー」

【参考1】

この文脈では名詞"Hitler"は男性であるアドルフ=ヒトラーを指しますので男性名詞として取り扱わねばならず、不定冠詞"ein"や形容詞"klein"もそれに従って変化します。したがって、"Hitler"を女性名詞扱いしている"eine kleine Hitler"は文法的に正しくありません。(「アイネ=クライネ=〜」="eine kleine 〜"としたのは、"eine kleine Nachtmusik" (「小夜曲」)からの類推による誤りかと思われます。)正しくは、「アイン=クライネル=ヒトラー」="ein kleiner Hitler"です。

【参考2】

本多氏は、NHKのアナウンサーの実況中継について次のように論評しています。

「NHKラジオの野球放送をきいていると、これも日本語化したイギリス語「チーム」のことを、いかにも知ったかぶり(これも家畜語だと「スノビズム」だの「スノッブ」だのという)で「ティーム」と発音していた。なるほどね。すでに日本語化した「チーム」ではイヤだから、もっと植民地化した「ティーム」」のほうが奴隷的で、植民地日本の家畜人にふさわしいということなのだろうか。つまりチームよりティームの方がそれだけ本物のイギリス語だというのだろう。そんなにも家畜人になりたいのなら、これは果たして本当のイギリス語のティーム(team)なのかどうかを再検討してはいかがなものか。つまり発音記号で書けば[ti:m]と正確に発音していますか。この[i:]は日本語の発音での「イー」とは断じて同じではないのだが。さらにティームの「ム」も正確に[m]と発音しているだろうか。ム(ローマ字ならmu)と言ってはいないだろうか。

…と、これはマアむろん当てこすりにすぎないが、ともあれ妙な「知ったかぶり」で(NHKの巨大犯罪としてよくいわれるところの)日本語破壊に手を貸さないでほしい。」

(『実戦・日本語の作文技術』所収「家畜人用語辞典のこころみ」251〜252ページ)

語源:anachronism(イングランド語)

用例:「今となってはポル=ポト政権下での大虐殺を疑う者など、なにか特別なアナクロニズム的集団以外にはなくなりましたが、10年ひと昔まえにはこんなことで、“大論争”が行なわれていたものです。その雰囲気の一端は、本多勝一篇『虐殺と報道』(すずさわ書店)に見ることができるでしょう。」

(本多勝一著『検証カンボジア大虐殺』449ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「時代錯誤」、「時代遅れ」

語源:analogy(イングランド語)

用例:「さまざまな差別の実例をあげてゆくうちに、その超高級花嫁学校の生徒の一人(したがってたぶん20歳前後)が、日本ほど平等な国はないと思っていると言った。「日本ほど平等な国はない」と語る日本人がいれば、さきのアメリカ人の場合のアナロジーで、その日本人は今の日本の体制からたくさん利益を得ていることになる。」

(本多勝一「不平等の星の下の異常人間」、『潮』1975年1月号→朝日文庫『殺す側の論理』第12刷63ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「類推」

語源:innocent(イングランド語)

用例:「御存じでしょうか。世界各国で、日本ほど親米感情が強いところは珍しいことを。これは悪いことではありますまいが、一般的日本人がアメリカの正体についてイノセントであることも大きな原因でしょう。全くうまく占領政策が成功したものです。」

(本多勝一「ソンミ事件をめぐるアメリカ人宣教師との公開討論」、朝日文庫『殺される側の論理』第13刷136〜137ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「世間知らず」、「無知」

語源:intensive(イングランド語)

用例:「したがって、現在の中国やアルバニアに関して、私は自信をもって解説なり意見なりを述べる資格は、まだない。それは自分でなっとくできるだけのインテンシヴな取材ができる日まで、保留しておく。」

(本多勝一著『戦争を起こされる側の論理』所収「中国の旅から」)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「集中的」

語源:excuse(イングランド語)

用例:「これでは、現状でも批判精神が強いのだと読者に思わせ将来ますます体制の歯車化するためのエックスキューズ(弁解)に利用される(する)のだろうと思った。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「「読者VS朝日新聞」という連載記事について」272ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「弁解」、「口実」、「言い訳」、「逃げ口上」


カ〜コ

語源:counter blow(イングランド語)

用例:「ここに彼女の体験を報告するが、決してこれはカンボジア革命を否定するためのものではない。こうした体験者の話しを過大に増幅して書きたてる反動側の文筆家がいることを知っているので、それに対する一つのカウンター・ブロー(迎撃)として、こうした報告を出しておく必要にせまられたためだ。」

(『潮』1975年10月号掲載、本多勝一「カンボジア革命の一側面」、278ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「迎撃」、「反論」、「反駁」

語源:cut(イングランド語)

用例:「右の部分をカットするに際して、編集部の担当記者は、もちろん私に了解を求めてきている。私としては、この部分が発表されることはプラスだと考えていたが、それにこだわってケンカ腰になるほど、この場合は本質的問題でもなかったため、これは編集部の「編集権」による削除であることを「明言」した上で了承した。だから決してカット自体は問題としないし、編集権というものについてもさきのF章で説明した通りである。」

(本多勝一「『諸君!』の読者“諸君”への追伸」、『殺す側の論理』朝日文庫収録、235〜236ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「削除」、「割愛」


サ〜ソ

語源:synchronize(イングランド語)

用例:「さまざまな言動の基本がそこにあるとなれば、カッコよさも結局は処世術であり、世渡りの手段にすぎません。そうであれば、岡村昭彦といった典型的ニセモノの言動にシンクロナイズするのもまた当然であり、それに便乗して名誉毀損を犯しても、いさぎよく訂正なり謝罪なりしては「カッコ悪い」のでしょう。(実は誤りは訂正してこそ真のいみで『カッコいい」のですが、そこまで思いいたらぬのがニセモノの特徴のひとつです。)」

(本多勝一著『貧困なる精神L集』所収「筆刀両断!むのたけじ」121ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「同調」

語源:sectionalism(イングランド語)

用例:「私は大学生活が長かったので入社はおそいのですが、まだ若いときの抜擢であり、むろん昇進でもあります。しかし何よりも嬉しかったのは、まさに泰氏の「夢に見た」とおりの、ジャーナリストとしての理想的環境のおかれたこでした。セクショナリズムの元凶たる「部」には所属せず、編集局直轄のもとで大型遊軍として自由な企画や取材ができる。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「第四権力の消滅」224ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「縄張り争い」、「権限争い」


タ〜ト

語源:taboo/tabu(もとトンガ語、のちにイングランド語などにとりいれられる)

用例1:「『週刊金曜日』にタブーはありません。広告収入に依存しない雑誌なので、迎合しなければならない広告主もいません。あらゆるタブーに挑戦し、自由な言論メディアとして、「日本のいま」を語りつくします。」

(出典:「他誌は『書けない』」、『週刊金曜日ホームページ』)
http://www.jca.ax.apc.org/kinyobi/syokai/tasi.html

用例2:「地球はじまって以来、暴力なしの、丸ハダカの経済支配が成功したためしはないだろう。…中国その他のように、反対のプロレタリアによる権力でも、タブーとしては同じことが生ずる。すなわち、反革命や資本主義復活を推進させるような言論を、大っぴらに許すはずはないのだ。中国の権力、すなわち革命側にとっては、これはタブーであり、それを支えているのは、結局は人民軍というカウンター(迎撃)力である。そうであれば、もはや「タブー」という現象そのものは、本質的問題ではないことが理解されるだろう。このことは、たとえば「戦争が悪い」という言葉と似ている。近代から現代の「戦争」の多くは、侵略「した側」と「された側」とのケンカであって、悪いのは決して「戦争」という現象そのものではない。あくまで「侵略」が悪いのだ。侵略に対するカウンター暴力としての抵抗の結果、戦争という現象が見られるにすぎない。同様に、タブーもまた単に現象そのものであって、タブーそのものを正面に据えて論じてみても、あまり重大な意味を持つ成果をもたらさぬであろう。要するに当り前のことである。権力のあるところ、タブーは避けられない一現象にすぎない。」

(本多勝一「報道と言論におけるタブーについて」時事通信社『講座・現代ジャーナリズム』第六巻「ジャーナリスト」収録(1974年発行)朝日文庫『事実とは何か』収録)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「禁忌」、「しては(言っては/触れては)ならないこと」

語源:dimension(イングランド語)

用例:「以上の検討によって、大ざっぱではありますが、真実という日本語はルポなどでは避けた方がよいこと、事実と本質はディメンション(次元)が違うことが明らかになります。」

(本多勝一著『事実とは何か』所収「事実と「真実」と真理と本質」35ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「次元」


ナ〜ノ


ハ〜ホ

語源:behaviour(イングランド語)

用例:「たとえば大江健三郎がこういう卑劣で不誠実なビヘイビアをやる時は、どういう意図だと思いますか。明白に読者をだますわけでしょ。なんの意図があってそうやると思いますか。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「にせ知識人とにせジャーナリズム」166ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「ふるまい」、「行動」、「行為」

語源:fact(イングランド語)

用例1:「ただこの三〇年間に急速に時代への影響力を強めてきたものに、ルポルタージュとか記録、すなわちファクト(事実)をめぐるジャンルがある。皮肉なことに、ある小説家の作品の中で最も大きな反響(社会的影響力)を呼んだのはルポの類だったといった傾向は、ここにいちいち実例をあげるまでもないであろう。」

(本多勝一著『事実とは何か』所収「ルポルタージュと表現の自由」256ページ)

用例2:「いうまでもなく、大量虐殺がまるでウソだったことを示す具体的証拠が出てきたのであれば、話は別だ。少なくともジャーナリストや学者なら、事実(ファクト)に対しては事実で勝負するほかはないのである。カンボジアがポル=ポト政権下にあった四年間、現代の世界に類例のないほど徹底して鎖国と報道管制をしたキュー=サムファン氏たちが、タイ国境に追いつめられた“崩壊政権”となってからあわてて、大本営発表記事を書いてくれる記者を「案内募集」するのに応じてみても、あまり事実の勝負にはなりにくい。」

(本多勝一著『事実とは何か』所収「事実には事実を」259〜260ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「事実」

語源:plus(イングランド語)

用例:「右の部分をカットするに際して、編集部の担当記者は、もちろん私に了解を求めてきている。私としては、この部分が発表されることはプラスだと考えていたが、それにこだわってケンカ腰になるほど、この場合は本質的問題でもなかったため、これは編集部の「編集権」による削除であることを「明言」した上で了承した。」

(本多勝一「『諸君!』の読者“諸君”への追伸」、『殺す側の論理』朝日文庫収録、235ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「有益」、「利益」、「有利」

語源:Beruf(ドイツ語)

用例:「もともと「使命感」や「正義感」をいだいて新聞記者になったわけではありませんが、新聞--というよりそのための取材対象だったさまざまな人々やさまざまな民族--に“教育”されて、次第に新聞が好きになり、いわばドイツ語のベルーフ(天職・使命・職務)ともいうべき感覚をこの媒体に持つにいたりました。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「失業して公共職業安定所へ」157ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「天職」


マ〜モ

語源:mistake(イングランド語)

用例:「単なるミステークや駄作といった程度ならともかく、大江さんの場合はそれが全人格の本質に関わる問題でしょう。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「にせ知識人とにせジャーナリズム」172ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「失敗」、「過失」、「錯誤」、「誤り」


ヤ〜ヨ


ラ〜ロ

語源:writer(イングランド語)

用例:「ライターとしては二流・三流の記者がそのようにして管理職になり、処遇(給料ランク)を上げたのち、さらに「空席待ち」で編集委員にもどってくることがあります。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「第四権力の消滅」225ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「書き手」、「もの書き」、「記者」

語源:rank(イングランド語)

用例:「すると真のライターとして書きつづけている「ホンモノの編集委員」よりも上のランクになっている。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「第四権力の消滅」225ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「職階」、「地位」、「序列」、「階層」

語源:route(イングランド語)

用例:「去年の場合はどういう方法でやったかというと、アンドレ=ジイドの『ソビエト紀行』ってあるでしょう。あれと同じルートを行ったんですよ。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「にせ知識人とにせジャーナリズム」179〜180ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「道筋」、「経路」


ワ〜ン

語源:one of them(イングランド語)

用例:「ただし、「朝日新聞編集委員」とは書かない。ま、『朝日』がまた「来てください」といえば、それはまた考えないでもないけどさ。ワン・ノブ・ゼム(選択肢の一つ)としてだけどね(笑い)。」

(本多勝一著『滅びゆくジャーナリズム』所収「こんにちは、朝日新聞」148ページ)

「普通の日本語」(または「漢語系家畜語」)によるいいなおし:⇒「選択肢の一つ」、「「その他大勢」のうち」


参考文献

西村有史「『金曜日問題』とは何か」
http://www.coara.or.jp/~pwaaidgp/kinyoubi.html

本多勝一「何をもって「国語の乱れ」とするのか」、朝日文庫『実戦・日本語の作文技術』226〜242ページ、1991年10月1日初刷発行

本多勝一「家畜人用語辞典のこころみ」、朝日文庫『実戦・日本語の作文技術』243〜252ページ、1991年10月1日初刷発行


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最終更新日2000/05/08 (Y/M/D).