Ⅰ.化学兵器禁止条約
「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」(通称「化学兵器禁止条約」)は、平成9年4月29日に発効した国際条約です。
化学兵器とは、化学物質の毒性を利用して、人又は動物を殺傷、無力化しようとする兵器であり、大量破壊兵器の中でも、過去に使用された実績が多く有ること、民生用として日常的に利用されている化学物質を原料として比較的容易に生産が可能であることに大きな特徴があります。従って化学兵器禁止条約においては、化学兵器の全面廃絶を実現するため、化学兵器の生産等を全面的に禁止するだけではなく、化学兵器として使用可能な化学物質等に関する生産、貿易等の規制とその検証措置にまで規定が及んでいます。
1.化学兵器の全面禁止
化学兵器の開発、生産、取得、貯蔵、保有及び使用等を禁止しています。化学兵器及び化学兵器生産施設を保有している場合は、原則として10年以内にこれを廃棄することとなっています。
2.産業検証制度
化学兵器として使用可能な毒性化学物質等について、化学兵器に使用されていないことを明らかにする制度です。
(1)申告制度
化学兵器への転用の可能性が高い物質を「表1剤(サリン、ソマン等)」に指定し、その製造及び使用の数量や方法等について厳格な管理を行うことを義務づけています。また、化学兵器の原材料となり得る化学物質を、兵器への転用のリスクに応じて「表2剤(チオジグリコール等)」、「表3剤(トリエタノールアミン等)」に指定し、一定量を超えて製造等を行う事業所ごとに、その実績数量及び予定数量等を国が国際機関に申告することを規定しています。
更にそれ以外の「識別可能な有機化学物質」を一定数量以上製造を行う事業所についても、その製造実績数量を国が国際機関へ申告することを規定しています。
(2)国際機関による検査
申告の対象となる事業所の一部について、化学兵器に転用されていないことの確認のために、国際機関の検査の受入れを規定しています。
3.輸出入の規制
化学兵器の輸出入の禁止の他、「表1剤、2剤及び3剤」に関しても輸出入の禁止又は制限が課せられます。
4.説明の要請
締約国は、他の締約国の条約遵守に疑義を持った場合に、直接又は条約機関を通じてその国に対して説明を行わせることを要請できます。
5.チャレンジ査察(申し立てによる査察)
条約の実効性を一層高めるための制度で、条約の締約国は、他の締約国の条約遵守に疑義を認めた場合に、国際機関に申し立てによる査察を要請することができます。
Ⅱ.化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律
この法律は、我が国が化学兵器禁止条約を守るために定められた法律で、化学兵器の製造、所持、譲り渡し及び譲り受けを禁止するとともに、特定物質、第1種指定物質及び第2種指定物質等を規制する等の措置を講ずることを目的としています。
1.化学兵器の製造等の禁止
砲弾、ロケット弾等の兵器であって、毒性を有する化学物質等を充填したものを化学兵器と定義し、その製造、所持、譲り渡し及び譲り受け等を禁止しています。
2.特定物質の製造等に規制
毒性物質及び毒性物質の原料となる化学物質のうち、化学兵器に使用されるおそれが高いものを特定物質(サリン、ソマン、VX等条約における表1剤に相当する。)として定め、これらの製造、使用、譲り渡し、譲り受け、輸入及び所持等に対して規制が課せられます。
3.第1種指定物質の製造等及び使用に関する届出
特定物質以外の毒性物質及びその原料となる化学物質のうち、化学兵器に使用されるおそれがあるものを第1種指定物質(チオジグリコール等条約における表2剤に相当する。)として定め、これらを一定数量を超えて製造等及び使用する者に、製造等及び使用予定数量並びに実績数量等の届出を義務付けています。
・製造等 Ⅰ.製造 Ⅱ.抽出 Ⅲ.精製
・使用 Ⅰ.調合、分離等物理的な工程を加えること(抽出、精製を除く)
Ⅱ.化学反応により他の物質に転換すること
4.第2種指定物質の製造に関する届出
民生用としても比較的多く利用されているが、化学兵器に使用されるおそれがある化学物質を第2種指定物質(三塩化リン、トリエタノールアミン等条約における表3剤に相当する。)として定め、これらを一定数量を超えて製造する者に、製造予定数量及び製造実績数量等の届出を義務付けています。
5.指定物質の輸出入の届出
第1種指定物質又は第2種指定物質を一定数量を超えて輸出入した者に、前年の輸出入数量等の届出を義務付けています。
6.有機化学物質の製造に関する届出
特定物質及び指定物質以外の政令で定める有機化学物質を一定数量を超えて製造した者に前年の製造実績数量等の届出を義務付けています。
なお、政令で定める有機化学物質のうち、りん、硫黄又はふっ素を含むものを特定有機化学物質といいます。
7.国際機関による現地検査
「化学兵器禁止条約」は、産業活動を阻害することなく化学兵器剤及びその前駆物質の生産や流通等を国際的な管理下に置くことで、条約の目的を達成するしくみとなっています。これを受けて「化学兵器禁止法」では、「化学兵器禁止条約」の範囲内で国際機関の検査の受入れを義務付けています。
なお、有機化学物質製造事業所の検査は、条約発効後4年目の年から実施される予定です。
8.報告の徴収
特定物質の規制の的確な実施及び条約の遵守について他の締約国からの疑義に対応する場合などのために、関係者から報告させることを規定しています。
・問い合わせ先
化学兵器禁止法につきましては、次の窓口にお問い合わせ下さい。
産業部産業振興課 電話082ー224ー5684
所轄県 鳥取、島根、岡山、広島、山口