判定文書改変:潮出版社への質問状

(1999年4月12日)


『ペンの陰謀』松本論文の件

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潮出版社御中

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時下益々ご清栄のこととおよろこびもうしあげます。

さて、私は豪州シドニー市に在住する佐佐木嘉則と申しますが、御社刊行の『ペンの陰謀』(本多勝一氏編集、1977年5月初版刊)に関しておうかがいしたいことがございます。

ことは随分以前にさかのぼりますが、私は『ペンの陰謀』においてはじめて、松本道弘氏が山本七平・佐伯真光両氏間の「宣誓論争」を裁定した判定文書「勝負あった!佐伯/七平論争」を目にしました。書き換え等の但し書きも特にみあたりませんでしたので、これが松本氏の判定文書の全文なのだとその時は素直に信じておりました。ところが先日日本にいる知人から同論文が最初に発表された『人と日本』(行政通信社)1977年1月号のコピーを送ってもらったところ、

「積み木を重ねるごとく、論理的構築の形成に努めた佐伯氏に対し、山本氏はトウフを重ねるごとく、詭弁を弄した形に終わってしまった。残念なことである。」

(『人と日本』106ページ;『ペンの陰謀』125ページ)

にひきつづく、最後の4段落(次に引用)が削除されていることが確認されました。


『人と日本』1977年1月号106ページ

私は、この論争によって、これまで無敗を誇っていた山本氏にはじめて土がついたと世間が料断したとしても、これまでの氏の論文の価値をいささかでも減殺するものであってはならないと信じる。私は氏の直感的判断を今でも高く評価している。とりわけ“空気”の哲学は、あらゆる講演の機会を把えては賞賛しているものである。従って私の発言に矛盾はない。たしかに、日本人はマスコミを含め“空気”に弱い。“空気”に左右され、“空気”で動く。私の山本氏に対する黒星判定により、氏に対する世間的評価が一時的にたとえ低下することがあったとしても、それは日本的“空気”のなせる業と断念し、さらに本来真理の探究者が支払わねばならない代価であると、前向きに判断するならば、この際潔く敗北を認めるべきであろう。一敗を喫することが恥ずべきことではなく、むしろ敗北を隠微におおい隠そうとする態度こそ、学者にあるまじき恥ずべき行為であろう。

私は山本氏のカムバックを信ずる。氏の経験から、および天才的な直感力から得た数々の観察を、論理的に肉付けし、今後当然日本が直面せねばならない“善処しかねる”諸問題を論究するために、論壇に再登場を願いたい。

最後に、もう一度両論士に拍手を送りたい。

そして両論客が微笑をかわしながら握手できる日が来たらんことを祈る。


(当該ページのコピーを同封します。)

なお念のために知人にたのんで『ペンの陰謀』収録の佐伯真光氏の論文「山本七平式詭弁の方法」を調べてなおしてもらったところ、そこには

「本書には【 『人と日本』に掲載された松本道弘氏の裁定文書の】全文が再録されている」

(102ページ)

と明記されており、それに続いて、上記の『人と日本』収録の松本論文の最後の4段落から

「私の山本氏に対する黒星判定により、氏に対する世間的評価が一時的にたとえ低下することがあったとしても、それは日本的“空気”のなせる業と断念し、さらに本来真理の探究者が支払わねばならない代価であると、前向きに判断するならば、この際潔く敗北を認めるべきであろう。一敗を喫することが恥ずべきことではなく、むしろ敗北を隠微におおい隠そうとする態度こそ、学者にあるまじき恥ずべき行為であろう。」

という部分だけが引用されているとのことです。

上記の4段落があるのとないのとでは、読者が読後に受ける印象はかなり異なります。『ペンの陰謀』においてこの部分の削除が断わりなくなされており、しかも「本書には全文が再録されている」という但し書きまであることについて、正直申し上げて些か奇異な印象を禁じ得ない思いです。

つきましては、削除にまつわる当時の事情と御社の見解をお教えいただきたく存じます。特に、次の4点にお答えいただければ幸いです。

(1)『人と日本』掲載の松本論文の最後の4段落が『ペンの陰謀』では削除されていることを、御社はご存じだったのでしょうか。もしご存じだったのなら、削除の背景をご説明ください。

1-1)佐伯真光氏、松本道弘氏、本多勝一氏のうちどなたの発案による削除なのでしょうか。

1-2)削除の意図は何でしょうか。

1-3)『ペンの陰謀』には削除したことの断わり書きがみあたらないのですが、これはなぜなのでしょうか。

1-4)裁定文の一部が削除されているにもかかわらず、どうして佐伯真光氏の論文には「本書には全文が再録されている」と書かれているのでしょうか。

1-5)その他、この件に関して情報をお持ちでしたらこの機会に御開示くだされば幸いです。

(2)以上の諸点が不明の場合、御社として当時の事情を調査なさるお考えはおありでしょうか。

(3)事情の如何に関わらず、「全文が再録されている」と称して実は文書の一部を断わりなしに削除した上出版することは事実に反する情報を読者に与えるものであり、出版倫理の観点からみていかがなものかと思いますが、御社としてはこの点についてどのようにお考えでしょうか。

(4)『ペンの陰謀』の新しい刷では上記の食い違いは是正されているのでしょうか。あるいは、次回増刷/改版時に是正なさるお考えがおありでしょうか。

 同書刊行からすでに歳月が経過しておりますので、あるい当時この件を担当なさった方が今ではその任を離れておられるかもしれませんが、御社の法人としての同一性・継続性に鑑み、社としての見解を明らかにしていただくよう切望いたします。御多忙中まことに恐れ入りますが、よろしくご回答いただけたら幸いです。万が一この種の質問には答えにくい、ということでしたら、ご返事がいただけるかどうかだけでもお知らせいただきたく存じます。

また、この件につきましては私以外にも興味を持っておられる方々がおられますので、さしつかえなければいただいたご返事はインターネット等を通じて公開させていただきたいと考えております。もしそれがご都合にさしつかえるようでしたら、公開をお望みでない旨もあわせてお知らせください。

不一

1999年4月12日

佐佐木嘉則拝

追記

この書簡と同一文面の電子メールを本日付けで御社の

webmaster@usio.co.jp

宛にお送りしましたので、その旨ご承知おきください。


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最終更新日 1999/11/01 (Y/M/D).