本多勝一研究会重要文献解題

本多勝一

「事実の料理法と報道の関係」

『潮』1975年6月号,朝日文庫『事実とは何か』198〜211ページ収録

文責:佐佐木嘉則

解説

『潮』1975年7月号に「欧米人記者のアジアを見る眼」が出る一ヵ月前の6月号に掲載されたのがこの記事です。この記事の前半は要するに、「欧米人記者…」のベトナム版です。第二次インドシナ戦争の末期、南ベトナム政府軍の戦線が崩壊し北・解放戦線軍がサイゴンめがけて殺到していたころ、当時の日本のメディアにあらわれた

などの報道が全てアメリカ側の視点にたつものであり、事実を伝えていない、「反動政府にとってまことに喜ばしい」ものであると攻撃しています。

ここに注目!

現地取材によらず、「あの解放軍がそんなことをするはずがない」というハズ論の論理展開が、「欧米人記者のアジアを見る眼」と酷似していることにご注目。「推論」と「事実」がいつの間にか曖昧になってしまう特異な文体にもご注意ください。

読みどころ

赤字による強調は引用者による;引用は朝日文庫『事実とは何か』第11刷1994年発行から)

「フエやダナンから、どうして住民は命からがら「脱出」する必要があるのか。

合州国サイドの思考からすれば、理由はかんたんであろう。地獄の使者のようなアカの軍隊がテロで虐殺をするから、その恐怖で逃げ出すのだと。しかし解放区や解放軍兵士の具体的な姿を知っている者からすれば、事情は全く正反対である。」

「「フエの虐殺」という有名な話がある。1968年2月のテト攻勢のとき、解放軍が民間人約3500人を連れ去り、大量処刑したという。殺されたのは米軍機関の勤務者を含む下級公務員やインテリだったとされている。これは米軍のソンミ虐殺といった完全な無差別虐殺でないにせよ、もし事実なら相当ひどい話だ。解放軍にも過ちがあるという一例なのかもしれない。明白な事実に目をつむることはできないが、真相はまだわからない。」

「だが、にもかかわらず、この種の報道に警戒せざるをえないのは、これがみんな米軍サイドからの取材によるものだからである。米軍がCIAを使って何をしてきたかを知っていれば、こうしたニュースはとてもまともに信ずることはできない。対インディアン政策以来の合州国史は、ある意味では「でっち上げの歴史」ということさえできる。本国でテストずみの方法をアジアで実行しているにすぎない。ベトナムだけがその例外でだと、どうしていえようか。むしろベトナムでそれをやらなかったら、その方が奇怪だ。そのようなでっち上げによってもたらされるのが「難民」である。恐怖の産物。」

「しかし「難民」は、そのような CIA的でっち上げ情報の恐怖だけで発生するのではない。(米軍がいなくなった今では、空からの都市消滅もできない。)より基本的には、政策として「難民」が作りだされているのだ。それはすでに1954年のジュネーブ協定のとき、ベトナムの南北分割にさいして「北」から「南」への「難民」が作り出されたことを、そのための作戦にあたった米軍の軍医自身が書いている。」

「このような舞台裏を知れば、難民は銃を突きつけてでも強引に作り出されることが理解できよう。新聞は果たしてどこまでこうした実情を報道したか。情報は決してないわけではない。ハノイや解放放送は、このあたりのことをいつも叫んでいるのだ。」

これでは「難民」の何たるかが読者にわかるはずもない。そしてこのことは、反動政府にとってまことに喜ばしいことである。」

ここが知りたい


基礎研究室へ戻る
ホームページへ戻る


最終更新日1999/11/01 (Y/M/D).