本多勝一研究会重要文献解題

和田俊

「プノンペン解放一ヶ月:カンボジアの内情を探る

農村復興に最重点 腐敗した都市の空気恐れ」

朝日新聞75年5月17日7面

文責:佐佐木嘉則

解説

プノンペンのフランス大使館に足止めされていた外国人が5月になって出国するや、西側のメディアはクメール=ルージュの異常ぶりを一斉に報道しはじめた。それに対して、クメール=ルージュに好意的な観測を載せたのがこの和田記者の記事である。

ここに注目!

全都市住民の一斉退去などの異常行為を耳にしてもなお、なんとかクメール=ルージュに有利な解釈をしようと苦心を重ねる和田記者のご苦労のあとを偲びましょう。「外国人」(非純粋クメール族)であれば、住み慣れた街を一夜で追い出されても文句はいえないのかしらん?自分が新聞社という「商業主義的」メディアに勤めていながら、「商業主義的汚染の不安」なんて心配をしてあげているのもオカシイね。

読みどころ

赤字による強調は引用者による)

「農業復興は緊急の経済基盤整備であるが,都市の隔離には,他方で商業主義的汚染の不安というイデオロギー的側面もあったのではないか。解放勢力はこれまで五年間,農村の解放区を中心に抗米救国闘争を進めながら,クメール民族主義を鼓舞してきたはずである。しかも,解放軍兵士のほとんどは農民で,都市的消費生活に免疫性を持っていない。素朴な農村青年が一度都市の空気を吸うと,瞬く間に消費になじむことは,これまで各地で経験済みである。」

「カンボジア人の九割はもともと農民で,農村居住者である。その反面,プノンペンばかりでなく主要都市住民は,華僑(かきょう),ベトナム人,あるいはその混血者がほとんど。たとえば,プノンペン中心部,繁華街の居住者はほぼ一〇〇%華僑であり,都市から農村への疎開といっても,純粋カンボジア人は元来都市には住んでいなかったのである。いかに革命勢力とはいえ,都市を従来のまま温存すれば,新体制建設の基盤を流通過程を握る華僑勢力にどうしてもおかざるを得ない。新政権指導部が真にクメール民族主義者であるならば,全土解放というこの絶好の機会に「旧経済体制」を破壊しておこうと考えても不思議ではない。」

「大量処刑は疑問

プノンペン陥落以後,解放勢力による大量処刑の情報がもっぱら米国筋から流された。ニューズウイーク誌(五月一二日号)などばかりでなく,フォード大統領,キッシンジャー国防長官らも残虐行為をにおわせた。しかし,これらの米国情報はいずれも日付,場所などの具体性に欠けている。処刑を目撃したという仏人医師の話(パリ発九日ロイター電)は,まったくの虚構であることが判明した。また,タイに脱出した西側記者の中にも,処刑を確認したものはおらず,むしろ否定的な見方をとるものが多い。

馬淵【直城】氏は仏大使館にろう城中も,時々街に出たが,大量処刑のふん囲気はどこにも見られなかったと言っている。「解放軍兵士は確かに時計をほしがったが,彼らは“もしよかったら,どうぞください”と非常に丁寧なカンボジア語を使い,略奪という感じではなかった。また,都市住民の移住にしても一夜にして強行されたのではない。なかには自動車で出かけたものもおり,一部報道のように悲惨極まるものではなかった」」

ここが知りたい


基礎研究室へ戻る
ホームページへ戻る


最終更新日1999/11/01 (Y/M/D).