本多勝一研究会重要文献解題

松本道弘著

「勝負あった!佐伯/七平論争」

『人と日本』(行政通信社)1977年1月号

のちに本多勝一編集『ペンの陰謀』(潮出版社、1977年5月初版刊)に収録された際に改変され、増刷時にさらに改竄が加えられた。

文責:佐佐木嘉則

解説

ロッキード疑獄事件の際に同社のコーチャン氏が証人として宣誓証言したのは「誓った」のか否か、をめぐって佐伯真光氏と故・山本七平氏の間で交されたのが、論壇史上有名な「宣誓論争」です。長期にわたるこの論争は、山本氏が松本道弘氏(ディベート道場主宰)を審判として指名したともとれるような発言をし、それを受けて佐伯氏が松本氏の審判を仰ぐことに同意したことで異例の「レフェリーつき論争」となり、結局松本氏が佐伯氏に軍配をあげたことで一応の決着をみました。

松本氏がその判定理由を詳述した論文「勝負あった!佐伯/七平論争」(『人と日本』(行政通信社)1977年1月号掲載)は、後に佐伯真光「山本七平式詭弁の方法」の補章として本多勝一編集『ペンの陰謀』(潮出版社、1977年5月初版刊)に併録されましたが、その際、松本氏が全く知らない間にその結論部分の最終4段落(以下に引用)が削除されていました。(松本氏が『ペンの陰謀』発行まで削除をご存じなかったことは、御本人に確認済みです。)

ここに注目!

自分の出した回答文を週刊誌が全文掲載せず一部のみ引用したのは「大改竄・削除」だ(本多勝一『貧困なる精神L』朝日新聞社、150/157ページ)、「どこへ転職・移動しようが、ジャーナリストとしてのモラルを問いつづけるであろう」(同書、151ページ)といきまく御当人の本多氏が、他人の文章を無断で「大改竄・削除」したうえ単行本に載せて平気でいる神経!

読みどころ

赤字および太字による強調は引用者による)

「積み木を重ねるごとく、論理的構築の形成に努めた佐伯氏に対し、山本氏はトウフを重ねるごとく、詭弁を弄した形に終わってしまった。残念なことである。」

(『人と日本』106ページ;『ペンの陰謀』125ページ)

にひきつづく、最後の4段落(次に引用)が削除されています。

『人と日本』1977年1月号106ページ

「私は、この論争によって、これまで無敗を誇っていた山本氏にはじめて土がついたと世間が料断したとしても、これまでの氏の論文の価値をいささかでも減殺するものであってはならないと信じる。私は氏の直感的判断を今でも高く評価している。とりわけ“空気”の哲学は、あらゆる講演の機会を把えては賞賛しているものである。従って私の発言に矛盾はない。たしかに、日本人はマスコミを含め“空気”に弱い。“空気”に左右され、“空気”で動く。私の山本氏に対する黒星判定により、氏に対する世間的評価が一時的にたとえ低下することがあったとしても、それは日本的“空気”のなせる業と断念し、さらに本来真理の探究者が支払わねばならない代価であると、前向きに判断するならば、この際潔く敗北を認めるべきであろう。一敗を喫することが恥ずべきことではなく、むしろ敗北を隠微におおい隠そうとする態度こそ、学者にあるまじき恥ずべき行為であろう。

私は山本氏のカムバックを信ずる。氏の経験から、および天才的な直感力から得た数々の観察を、論理的に肉付けし、今後当然日本が直面せねばならない“善処しかねる”諸問題を論究するために、論壇に再登場を願いたい。

最後に、もう一度両論士に拍手を送りたい。

そして両論客が微笑をかわしながら握手できる日が来たらんことを祈る。」

一方、『ペンの陰謀』収録の佐伯真光氏の論文「山本七平式詭弁の方法」には

「本書には【 『人と日本』に掲載された松本道弘氏の裁定文書の】全文が再録されている

(102ページ)

と明記されており、それに続いて、上記の『人と日本』収録の松本論文の最後の4段落から太字部分、すなわち

私の山本氏に対する黒星判定により、氏に対する世間的評価が一時的にたとえ低下することがあったとしても、それは日本的“空気”のなせる業と断念し、さらに本来真理の探究者が支払わねばならない代価であると、前向きに判断するならば、この際潔く敗北を認めるべきであろう。一敗を喫することが恥ずべきことではなく、むしろ敗北を隠微におおい隠そうとする態度こそ、学者にあるまじき恥ずべき行為であろう。

だけが引用されています。

後日談

佐伯氏の名誉のために申し添えると、『ペンの陰謀』初刷を眼にして松本論文の末尾が削除されているのに気付いた佐伯氏は、削除部分を復活するよう潮出版社に電話で申し入れられ、検討する旨の返事を編集部から得られたそうです。(佐伯氏御本人からの書簡より。)ところが同書第5刷をみると削除部分の全部ではなく一部(上記引用の太字部分)のみが松本論文の末尾に付加され、さらになんと佐伯氏の論文から

「本書には全文が再録されている」

という文言が削除されるという、さらなる改竄が加えられています。(詳しい比較は、ここをクリック。)佐伯氏のおたよりから判断するかぎり、氏はこの書き換えについてご存じなかったようです。

ここが知りたい


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最終更新日1999/11/01 (Y/M/D).