入居案内

「本多勝一研究会」へのお誘い


以下は、去る1999年1月にAlternative Mailing List(AML)に投稿したものとほぼ同内容です。件の投稿は次のページでみられます。

http://www.jca.ax.apc.org/aml/9901/10716.html


(重複投稿御容赦)

本多勝一氏(もと朝日新聞編集委員;現『週刊金曜日』編集委員)といえば言うまでもなく日本屈指の著名な進歩派ジャーナリストで、特に朝日新聞記者時代の一連の「極限民族ルポ」のほか、ベトナム戦争、南京事件、カンボジア大虐殺などの取材報道でも国内世論の動向に影響を与えてきました。今日でもその筆にはそれなりの影響力があり、氏は自らの著書(『滅びゆくジャーナリズム』)の中で“本多勝一の著作に影響されてジャーナリストを志す若者が少なくない”旨を誇らしげに記しています。その言論の足跡をたどる上で、時評集『貧困なる精神』シリーズおよび朝日新聞社刊『本多勝一集』と朝日文庫『本多勝一シリーズ』は最も信頼できる一級資料を提供してくれています。

いや、実際には、「提供してくれるハズでした」と申し上げねばなりません。なぜならば、本多氏がカンボジア大虐殺や文化大革命に関する自らのかつての発言をその後の情勢の変化に応じるかのように著書の随所で改変していることが明らかになったからです。

その中でも最も驚愕すべき改変は、カンボジア大虐殺をめぐる本多氏の主張の大逆転にみられます。同氏はポル=ポト派によるカンボジア全土「解放」(1975年4月)後間もなく「カンボジア革命の一側面」(『潮』同年10月号掲載)と題する記事において

「『共産主義者による大虐殺』などは全くウソだった」(278ページ)

と断定していました。この記事はすずさわ書店刊『貧困なる精神・第4集』(翌1976年3月20日初版初刷発行)にもほぼそのままの形で収録され、その後さして問題とされることもないまま第8刷(1987年3月25日発行)まで増刷を重ねています。しかるに同書第9刷(1990年3月10日発行)増刷時に至って件の虐殺否定の文言が抹消され、

「事実そのものが全くわからず」 「軽々に論じられない」

などと書き換えられています。つまり、同一出版社から刊行されている同一著者同一書名の初版本が、かたや虐殺全面否定(第1〜8刷)、かたや判断保留(第9刷)と全く異なる見解を表明しているわけです。

にもかかわらず第9刷でも記事の末尾にはあいかわらず「『潮』1975年10月号」が出典として掲げられている上、書き換えたことを明記する断わり書きはまったくないため、事情を知らないまま第9刷を目にした読者は、“記事文中で「いま」(執筆日)とされている1975年の8月19日に本多氏がこの記事全文(改稿箇所も含め)を書いた”ものであり、“当時本多氏は虐殺の真偽については(慎重にも)判断を保留していた”と信じさせられるという仕掛けになっています。

この書き換えの意図ならびにこのような書き換えが他の著作でも行なわれているのか等について本多氏自身に対して問い合わせる質問状が送付され(1995年12月)、追って“質問には全て答える”旨の確約が本多氏からいただけましたが、その後足掛け5年を過ぎた今もなお回答が得られていません。

しかもそのその一方で本多氏は、自分と違ってすばやく反ポル=ポト陣営へと乗り換えそこねた後発の虐殺否定派の人達をあざ笑うかのように、

「『虐殺はウソだ』と根拠もなく叫んでいる幼稚な段階の方たちには、とてもまともな相手はできません。」

(朝日文庫『検証カンボジア大虐殺』1989年11月20日初版初刷発行、引用は1990年12月20日発行第2刷より)

などと記してもいます。

さらに、その後得られた情報によれば、文化大革命に関する本多氏の著作においてもやはりかつての熱烈な賛美・礼賛の色を薄める方向で書き換えが行なわれています。(「一部改稿」と断わり書きがあるものもありますが、その場合も具体的にどの箇所が書き換えられたのかという説明がないため、もともとの著作との異同が不分明なのが常です。)

当初、新刊書店経由で入手できる本多氏の著書に目を通しさえすればその思想の軌跡が正確に辿れると無邪気に信じ込んでいた私達は、このような事態に直面して、氏の著作の過去の各版・各刷を比較照合し改変や抹消が行なわれていないかを確認する必要に迫られました。(その中にはすでに品切れ・絶版になっている書籍や原記事を掲載した雑誌・新聞等も含まれるため、図書館あるいは古書店等も利用せねばなりません。)

これはもとより一個人が容易になしうる作業ではありません。そこで、有志による「本多勝一研究会」を電網界上に結成して資料の収集・分析を進めるべくここに会員を募る次第です。

会の趣旨・概要は次の通りです。

参加ご希望の方は、そのむね広報・連絡係(hondaken@hello.to)まで電子メールでご一報ください。おって詳細を御連絡します。また、会の活動に対するご意見・ご感想も受け付けます。なお、いただいたご意見は公表することがありますので、公表をご希望でない方はそのむねを明記してください。

最後に、

「もともと『責任をとる』ことについて、日本人は世界でも稀なほど鈍感な民族です。『水に流す』ことが評価され、いつまでも責任追及にこだわることは悪とみなされ、ナアナアの無責任メダカ社会。今の住専問題の根底にもこれがあるし、エイズ訴訟での関係役人や関係学者の責任問題にもこれがあります。」

(本多勝一著『貧困なる精神L集』朝日新聞社刊1996年発行所収「筆刀両断!むのたけじ」より)

と嘆かれるような風土の中、このささやかな市民活動を契機としてジャーナリズムに対する健全な批判精神と責任意識が私達の間に形成されていくことを願ってやみません。


追記:

この会員募集の呼びかけの転載は自由です。ただし、転載・転送にあたってはこの追記も含め全文を掲載してください。また、事後報告でも結構ですので、転載したむねをhondaken@hello.toまでお知らせいただけたら幸いです。

(文責:佐佐木嘉則)(1999年5月15日微更新)


ホームページへ戻る


最終更新日1999/11/01 (Y/M/D).